美容室は地域とともに。さくら屋代表の櫻井哲也さんに聞く

多摩マイライフ包括支援協議会の渥美京子です。

賛助会員さん紹介の3回目は、美容室「トレボー」、コスメショップ「SAKURAYA」などを多店舗展開している「株式会社さくらや屋」代表取締役社長の櫻井哲也さんです。

発祥の地は、聖蹟桜ヶ丘。
創業から60年、多摩ニュータウンの成長とともに歩んでこられました。美容室のお客さまの中には20代、30代でこの地に移り住み、子どもを育て、やがて孫ができ、70代80代の年齢になっても通い続けている方も少なくないそうです。20年前から車椅子で入れるよう店内を改修し、健康寿命をのばす取り組みもなさっています。インタビューには櫻井さんに加えて、美容師の柴田陽子さんにも同席いただきました。
社長の櫻井さんと柴田さん
親から子、孫の三代にわたる愛好者が多い美容室トレボー
   
渥美 ホームページ拝見しました。おしゃれで、とても素敵ですね。ずいぶんと幅広い展開をなさっていらっしゃる。ずっと多摩を基盤にされているのですか。

櫻井 創業60年、私は2代目になります。その前身は文房具屋です。祖父は明治時代に本郷で文房具の問屋をしていました。戦時中に父は多摩村に疎開。それが多摩での始まりです。当時は、バスも通っていなかったそうです。今、赤枝医院(多摩市関戸)さんがあるところに「雑貨店」を開き、お菓子や文房具などの販売を始めました。あの頃の文房具屋は「紙一枚ください」といった商売です。1枚1円の世界。で、化粧品を扱い始めた。化粧品は100〜200円だったそうです。

渥美 まさに多摩ニュータウンの開発が始まった時期ですね。

櫻井 1958年に創業しました。最初は農家の皆さんに化粧品は売れないだろうと思っていたそうです。ところが、農家のお嫁さんに化粧品を紹介するとみんな買ってくださった。母いわく「女性にとってきれいになるのはかけがいのないこと」と。
そうこうするうちに、多摩村にバスが通り始めました。多摩村には美容室がなかったので、これはチャンスととらえ店を聖蹟桜ヶ丘の駅前に移設し、美容院を始めました。街といえば、府中しかなかった時代です。そうこうするうちにニュータウンが完成し、高度経済成長がやってきて・・・。聖蹟桜ヶ丘を中心に発展していきました。

渥美 社長に就任されたのは?

櫻井 20年前になります。就任当時、11店舗でしたが、現在は26店舗となりました。

渥美 この街と共に発展されてきたのですね。

櫻井 お店をだした時期とニュータウンの開発・成長時期はぴったり重なります。多摩に入居してきた方たちがお店を育ててくれました。当時、20〜30代で多摩に入居された方たちが、40年以上たち今、70〜80歳になっています。 聖蹟桜ヶ丘は都市部から来た人たちが多いです。「多摩の山の手」と言われる土地柄、良いものをご存知の方が多いので、求める水準が高い。質を高め、期待を裏切らないように努めてきました。

創立60周年。社是は、共感と優しさ。

柴田 3代にわたってお店に来てくださるお客さまも多いです。お子さんが生まれ、七五三を迎え、やがて成人式、結婚式・・・とお店に通ってくださる。そしてお孫さんが生まれると七五三という具合に、長いおつきあいの人が多いですね。
高い品質を求める方が多いですので、スタッフの研修は力をいれています。お客さまと「フレンドリーに。だけれど、きちんと一線をひくこと」を徹底しています。

櫻井 「トレボーに行ってくる」を誇りに思ってくれるお店づくりをしています。週刊誌はおかないんです。

渥美 美容室といえば週刊誌がおいてあるのに?

櫻井 そういう(芸能界的な)会話はしない、ということです。

渥美 すると「家庭画報」とかを置いていらっしゃる?

櫻井 はい。「子どもが育ちあがったら、トレボーにいく。お金が自由になったら行こうね」と言われる方もいます。そうした声に応えるのが喜びです。
スタッフのお子さんたちも、うちに就職するケースが多いです。一般に、美容室は「朝練」や「夜練」があり、3Kといわれる業界です。仕事もきつい。でも、うちはワークライブバランスを大切にしていて、研修は営業時間内にしています。働きやすい環境、スケジュールを組み、講師を呼んで本社の2階で研修します

「陽転志向」には、互いに元気よく目をみて挨拶しよう、明るい笑顔を忘れないようにしよう、新しい仲間を大切にしよう、素晴らしいライバルをつくろう、他の人の長所を褒めよう、分からないことはその場で機構、ポジティブに話そう、今日できることは今日中にやりとげよう、良い習慣を身につけよう、愚痴・不平・不満・批判は絶対にやめよう、当たり前のことを大切にしよう、全てのことに感謝しよう

渥美 社是は「共感と優しさ」とホームページにありました。

櫻井 美容院業界はいうなれば職人の世界です。よく、街でチラシをまいていますでしょう。あれは「自分の客は自分でとれ」ということなのです。チラシには印がついていて誰が配ったものかわかるようになっています。ですから、美容室の店の中はライバル同士。お客さまは売り上げの対象です。
私は、そういうのはダメだと思っています。誰にでも不安や悩みがあります。人と人との共感と優しさが大切です。小指の先のささくれの痛みまで共感できるようなこころくばり、優しく包み込むラポール、それがベースにあります。それにより、お客さまにとって美容師がかけがえのない存在になってゆく。
    注)ラポール:心理学用語。主として2人の人の間にある相互信頼の関係。すなわち「心が通い合っている」「どんなことでも打ち明けられる」「言ったことが十分に理解される」と感じられる関係(ブリタニカ国際大百貨辞典より引用)

渥美 スタッフ数は?

櫻井 26店に230人です。正社員、パート、アルバイト、業務委託・・・といろんな働き方が求められている。ダイバシティです。

渥美 たくさんのブランドをお持ちですが、ちょっとご説明いただけますか。

櫻井 「トレボー」は、クオリティの高いコンサバティブな美容室で比較的中高年が多いです。「バースデーbirthday」はアクティブファミリー向けで20代から40代がメイン。「アヴェタ」というブランドもあります。これはアメリカ発の世界ブランド美容室です。オーガニックの天然成分のカラー材やヘアケア、スキンケアをそろえた正真正銘のコンセプト美容室です。「ヘアサロン・ミラー」「SOHO New York」という美容室は、リーズナブルなファミリーサロンで、子どもからおばあちゃん、おじいちゃんまで家族みんなで気軽に利用してもらえる美容室です。実は特許も、持っています。
立体補正小顔。これは若い方に人気です。

 

渥美 さくら屋さんは高齢者の方たちへのさまざまな配慮、取り組みをなさっていると伺っています。

櫻井 きれいになる、会話をするということは健康寿命をのばします。メイクをすると顔つきが変わり元気になられたとか、失禁がなくなったという方もいます。きれいになったばばを見て、じじが明るくなったという話も聞きました。うちのコスメショップで化粧品を買っていかれる80歳すぎのお客さまは、きれいになろうというモチベーションが高いなあと感じます。
ひとり暮らしの方が、ふらりと外出して、会話を楽しめる場所はあまりないですね。美容室は、外に出る目的になるのです。おしゃれして、お化粧してでかける。そこで楽しい会話がある。すると、心がリフレッシュします。ですから、関係づくりをとても大切にしています。

渥美 それはすごいことですね。だからこそ、美容師の教育にも力を入れ「傾聴・受容・共感」を大切にされているですね。

櫻井 「目的をもって外出し、楽しみましょう」という付加価値が美容室にはあります。

柴田 高齢のお客さまには細やかな気遣いを心がけます。たとえば、パーマやカラーなど時間が長くなる時は、シャンプーする前に小さな声で「トイレ大丈夫ですか?」とお聞きしたり、トイレに行かれるときに「手をひきましょうか」とお声がけする。髪のセットが終わっても帰りたくなくなるような居心地のよさを追求しています。

車椅子で利用できる。トイレには非常ボタンも設置

櫻井 車椅子にも対応しています。トイレには非常ボタンをつけています。車椅子対応のトイレも用意しています。

渥美 いつからそのようにしているのですか?

櫻井 20年前からです。永山のお店は、オートシャンプーにかえました。

渥美 オートシャンプー?

櫻井 水流で洗う自動シャンプー機です。きれいに洗えて、5分で終わります。食洗機みたいなものです。美容師の重労働の緩和にもなります。腰痛や手荒れの防止にも効果的です。これがあると、60歳をすぎた美容師も「あと10年は働ける」と言います。

渥美 定年はないのですか?

櫻井 ありますが、希望すれば同じ条件で働けます。いくつになっても、働いてもらいたい。

渥美 すごいですね。

柴田 実は私、70歳。

渥美 ええっ!見えません。

柴田 定年すぎて10年たちますが、今も現場にたっています。

 


渥美 多摩マイライフ包括支援協議会の賛助会員になってくださったきっかけは?

櫻井 地域の住民の団体だから。イコールうちのお客さまだからです。

渥美 私どもに、どんなことを期待されますか。

櫻井 地域のお客さまは高齢になっていかれます。うちの取り組みをぜひ、広く伝えていただきたいです。「車椅子でいける美容室を探していた」といわれたことがあります。まだまだ情報が伝わりきれていません。いつまでも美しく、自分らしく生きられるためのお手伝いもしています。その一つが「大人成人式」です。ヘアメイクをして、その人らしい服を着て、プロカメラマンが写真を撮っています。二十歳の成人式は、一回こっきりで、みんな似たような格好をしています。そうではなく、40歳、60歳の節目節目で「大人成人式」をして、その時々の最高の自分を残しましょうと。それは内なる思いを引き出す作用があります。遺影を撮影したいニーズもあります。

渥美 車椅子で行くことができ、人と会話を楽しむ目的で外出するきっかけになり、健康寿命が延びる・・・。桜屋さんの美容室は地域が必要とする取り組みを先進的になさっていることがわかりました。今日はありがとうございました。

インタビューを終えて(多摩マイライフ包括支援協議会の野城&渥美)