多摩マイライフ包括支援協議会「正会員の紹介」シリーズ。
2回目は多摩マイライフ包括支援協議会の理事で、社会医療法人河北医療財団の副理事長、明石のぞみさんにお話を伺いました。

―「人に感謝される仕事」を目指して―

青森の小さな町で、開業医の長女として生まれました。
医師として昼夜問わず働き、時には赤ん坊をとりあげ、雪の日は馬車に乗ってでも往診する。そんな父の後ろ姿を見て、「人に感謝される医師の仕事って素敵だな」と子ども心に感じていました。ある日、当時はまだ珍しかった女医さんが、父の診療所に手伝いに来たのを見かけた私が「女のお医者さんっているの?」と母に聞いたそうです。「いるよ」と答えると、「じゃあ、なる!」と宣言したらしくて。まだ幼かったので私自身はそのことを覚えていないのですが、その後、確かに医師の道へ迷うことなく進んできたように思います。

研修医時代に同級生と結婚し出産しました。子どもが大好きだったので、医者になるのと同じくらい早くママにもなりたくて。でも勤めていた大学病院は夜勤もあり過酷な現場。乳飲み子のいる女医なんて、という雰囲気も当時の医局にはありました。周囲の助けも借りて何とか日々を乗り切っていたのですが、そんな時、子育てと両立できる日勤の病院を紹介されました。それが天本病院との出会いです。今から30年以上前のことです。


(当時の天本病院の様子・現在のあいクリニックの建物)

―「人を幸せにする医療」とは―

当時の天本病院は、規模こそ今より小さかったものの、院長の天本先生は、日本の高齢者医療のパイオニアとしてさまざまな改革を行い注目されていました。お名前は存じあげていたものの、「夜勤がなくて子育てに良いかも」程度の気持ちで出向いた私にはびっくりすることばかり。特に印象に残っているのは、医師以外の職員も熱心に議論に参加している姿でした。いつも「患者さんのためによりよいケアをするには、どうしたらよいか」と、看護師や介護の人、時にはお掃除の人までが熱弁を振るっている。院内カンファレンスといえば医師が話し、トップダウンで決まるという大学病院から来た私には目から鱗でした。私の話なんか数分で打ち切られちゃうんですから(笑)。患者さんの生活の視点に立って、職種を超えてみんなで考えるという天本イズムの洗礼を受けたんですね。今でいうチームケアの先駆けでした。
その後、病棟や外来診療だけでなく、「地域全体を病棟と捉えて、必要があればどこでも出かけていく」という在宅医療の世界も学び、気が付けばこの世界にどっぷりはまっていました。私が目指していた「人を幸せにする医療」を地域の高齢者ケアの中に見出したのです。


(天本宏先生とあいクリニックの前にて。2017年)


(在宅医療の患者情報を、医師や看護師・ケアマネジャーと共有する様子)

―人生100年時代に寄り添い、地域とともに成長する組織へ―

これまで、病院と言えば病気になったら行く場所。医療やケアは、後始末の仕事でした。しかしこれからは、人生100年時代をいかに支えるか。健康寿命の延伸に貢献することが医療の仕事です。天本病院から始まり、今は「あいセーフティネット」として21か所で高齢者医療・介護事業を行っているわたしたちですが、数年前から介護予防やフレイル予防も中核事業のひとつに位置づけ、力を入れています。今年(2021年)には聖蹟桜ヶ丘の駅至近に「あいフレイル予防センター」を開設し、無料でどなたでも専門職に相談できる体制を整えました。
ご高齢の方に元気でいていただくことは、地域の財産にもなります。生産人口が減少する中、お元気な方にはどんどん働いていただきご活躍いただきたいですね。あいセーフティネットでも今後、高齢者雇用やボランティアの受け入れを推進していく計画です。もともと女性が妊娠や出産でキャリアを中断させないよう、子育てと両立しやすい勤務体系や社内風土はあり、介護離職を防ぐための休暇制度なども導入してきました。「結婚しても、産んでも、介護してもあいセーフティネット」と私は言っています。
働く側もそうですが、医療や介護サービスを利用する側も、これからますます多様化する時代です。個々のニーズに応えていかなければならないし、まだご本人たちが気付いていない潜在的なニーズも堀り起こしていきたいと思っています。また、サービスは量だけあればよいというものではなく、利用者の方に「ああ、幸せだな」と感じていただける質でなければ意味がありません。みなさんに喜ばれ、地域とともに発展する持続可能な組織をめざして、800人の職員とこれからも邁進していきたいと思います。

(あいセーフティネットの本部がある天本病院の執務室にて)

■社会医療法人河北医療財団あいセーフティネットについて
https://kawakita.or.jp/aisafetynet/

(2021年12月取材)